
骨粗鬆症性脊椎骨に対する低侵襲椎体補強手術デバイスの開発
株式会社スパインクロニクルジャパン
代表取締役社長 米澤 則隆 様
日本国内で高齢者の脊椎手術は年間5万件以上実施されており、その数は増加傾向にある。一方で、高齢者の骨は脆弱で再手術に至るケースも少なくない。これを解決しようと脊椎外科医の米澤則隆氏は自ら医療機器開発の道を選び、株式会社スパインクロニクルジャパンを起業した。背骨の可動性を維持しながら安全な治療を目指した独自のデバイス開発は、AMDAPの支援を活用して量産試作へと着実に歩みを進めている。

米澤私は脊椎外科医として約14年間、臨床に携わってきました。その間に欧米から新しい術式や医療機器が次々と導入されましたが、日本の高齢患者さんは骨が脆弱なため、最新の機器でも限界があり、再手術を余儀なくされることが少なくありませんでした。
たとえば、骨粗鬆症で背骨の椎体が潰れてしまう椎体骨折の手術では、潰れた骨に骨セメントを注入して元の形に戻す椎体形成術や、脊椎固定インプラントで上下の骨を連結固定する方法があります。しかし骨の脆さから、骨セメントが不安定になったりインプラントが緩んだりして、隣接椎体への影響で再手術となることもあります。骨粗鬆症を有する高齢者の脊椎手術は30〜40%近い割合で合併症を伴うと報告されています。
そこで、同じくこの課題解決に取り組む整形外科医である叔父の米澤嘉朗先生(整形外科米澤病院診療部長)が発案した術式を採用することにしました。潰れた椎体をバルーンで膨らませ骨セメントを注入し、形を戻し、同時にスクリューで椎体を内固定する「スクリュー併用椎体形成術」です。この術式は、従来の固定インプラントを回避し、背骨の動きを保ちながら治療できるため、合併症や再手術のリスク軽減が期待されています。
「この術式専用の医療機器があれば、多くの患者さんのQOLを守れる」──そう思い、起業を決意しました。治療デバイスのコンセプトは「背骨の連結固定の回避」で、患者さんが脊椎の可動性を損なわずに生活できることを目標としています。手術時間の短縮や、切開範囲を小さく抑えることで低侵襲になる点も重要です。さらに、このコンセプトは開発段階から他の領域にも応用できました。現在は、加齢などで腰の脊柱管が狭くなり神経が圧迫される「腰部脊柱管狭窄症」や腰椎の椎間板や関節が変性して緩み椎骨が前方にずれる「変性すべり症」に対する医療機器の開発にも同時並行で取り組んでいます。
製品化を実現すれば、熟練医でなくても簡単にこの手術ができるようになり、救われる患者さんは増えます。製品化して臨床現場に届けるには、自ら研究開発を行う道が最も早いと考え、起業家先輩の後押しもあって3年前の2022年に起業しました。
米澤プロジェクトは大きく2つに分けて進んでいます。骨粗鬆症性椎体骨折に対する製品 (脊椎固定術を回避できるScrew-Anchored Kyphoplastyキット、続発性骨折リスクの軽減を目指した椎体間形成術キット)、もう1つは腰部脊柱管狭窄症、変性すべり症などに対する脊椎可動温存型の腰椎人工椎間板デバイスです。
いずれも試作段階ですが、コア技術は確立し、デザインはほぼ固まっています。来年には千葉大学医学研究院クリニカルアナトミーラボ(CAL)の協力のもと、カダバーを用いた前臨床試験を実施する予定です。この試験を通じて安全性や操作性を確認し、薬事申請につなげていきます。それまでにPMDA相談も順次完了していく方針です。
米澤起業して最初の1〜2年はコア技術の確立、すなわち「ものづくり」に集中しました。協力企業を探す中で、チタン合金加工やパイプ加工、プラスチック成形など、それぞれの企業に得意分野があることも学びました。部品一つにも寸法や厚みといった課題があり、試行錯誤を繰り返しました。
設計図の作成、材料の手配、試作の完成まで3か月以上かかることもありました。試作回数を最小限に抑えるよう設計を徹底的に煮詰めました。保険適応を見据えて各製品の構成をブラッシュアップし、医師が安全かつ簡便に操作できるよう極力シンプルなシステムにしました。知財については開発と並行して複数の特許を出願しています。
米澤全国の医師のご協力・ご意見を得ながら情報発信に努めたいと考えています。患者さんがしなやかな背骨とともに生活できる社会の実現に貢献することが私のゴールです。
新しい手技に対応した国産医療機器はなかなか生まれにくい現状があります。その一方で、日本における過去の研究や多くの脊椎手術の臨床経験には、次世代の治療デバイスのヒントが数多く詰まっています。AMDAPの支援を通じて効率的に事業化を図り、「日本発の新しい医療機器」の誕生を、脊椎外科医の先生方、ものづくり企業、販売企業の皆様と連携して実現させたいと強く願っています。

米澤AMDAPの支援では薬事・保険戦略の策定が一番助かりました。整形外科領域の医療機器に携わった経験豊富な専門家の助言を得て、半年ほどで戦略を固めることができました。
二つ目が非臨床試験です。私たちが開発しているインプラントは従来の使用方法とは異なる独自の設計構造です。そのため既存の規格と照らし合わせながら、安全性と有効性を実証する検証を繰り返しました。2025年は、東京都立産業技術研究センターの協力を得て検証を実施し、AMDAPで紹介を受けた整形外科の治療デバイスの非臨床試験に造詣ある専門家に試験方法やデータを見てもらいながら進めてきました。開発製品の設計が妥当であることを、専門家面談を通じて納得しながら推進できたのは大きな進展でした。
三つ目はネットワークです。2026年に予定している千葉大学CALでの前臨床試験も、AMDAPの支援があったからこそ実現しました。事業が確実に前進していることを実感しながら、この1年を駆け抜けることができたと思っています。