AI画像解析技術を活用した細菌感染症の診断・治療プラットフォームの構築
カーブジェン株式会社
代表取締役 中島 正和 様
データサイエンス本部長 宮塚 功 様
宮塚患者の尿サンプルから染色されたスライドガラスを準備し、スマート
フォンを顕微鏡に接続し、染色画像を撮影します。判定したい画像を選択して「分析する」をタップし、クラウド上のAIシステムにアップロードすれば、10秒以内に菌種分類結果を表示するものです。
この開発のアイディアは国立国際医療研究センターから「薬剤耐性菌にはニーズがある」と教えていただいたことがきっかけになりました。そして、日本発の製品として、発展途上国を含む海外でも使えるようにしたいという想いで始まっています。
中島菌を同定して適切な抗生物質を選ぶことは、高価な分析機やPCR検査機器があれば比較的簡単にできることで、それ自体のハードルは決して高いわけではありません。ただ、発展途上国などの医療現場で、「感染している原因菌の推定を精度高く身近なツールを使って行うこと」をひとつのゴールにしたいと思っています。
スマートフォンは発展途上国でも比較的普及していることに着目し、スマートフォンを使って、菌の画像をクラウドに上げる仕組みを考えたのです。
低価格で簡易に使えるシステムを一度作ってしまえば、発展途上国だけではなく、中小規模の医療現場でも受け入れられると思っています。大きな病院や教育的な用途でも使えます。医師や臨床検査技師は、感染症の菌の同定にバラツキが出るのは避けたいと考えており、ニーズは高いようです。
米国の疾病予防管理センターは、「耐性菌に対するアクションが何も行われない場合は、2050年に世界での死者は1000万人と予想される」と発表しています。1000万人という数字だけを聞くと「そんなわけないだろう」と思う人も多いかもしれませんが、すでに新型コロナウイルスが原因となって死亡された方は全世界で400万人超となっています。現在新型コロナウイルスに対して、ワクチンや治療薬が開発されていますが、薬剤耐性菌には、既存治療薬に耐性があり効果がありません。
感染症の治療には、原因菌をきちんと同定し、その菌に対して効果のある抗生物質や抗菌薬を投与することが必要です。現在は、感染した菌の同定に時間を要する場合があり、抗生物質や抗菌薬も「おそらくこの辺りの菌と思われ、この抗生物質を投与しよう」という形で経験的治療により処方されることが多く、生き残る菌があれば増殖します。このような状況は「薬剤耐性菌」が発生する一因となっています。
まずは、医療現場で、感染症の原因菌の同定を行い、効果のある抗生物質を投与し、将来の薬剤耐性菌問題に立ち向かえればと考えています。
宮塚医療機器プログラムを上市した経験がまだ我々にはありません。それに対して、厚生労働省の薬事承認から、社内の品質管理システム(QMS)の構築、知財戦略、各種規制に関すること、個人情報保護法、保険収載等、多岐にわたる専門家の方々をご紹介いただき、多数の専門家の方々から事業化の道筋を示していただき、非常に助かっています。
専門家の先生方と話をすることで、色々な知見をいただき、我々の血肉となっている実感があります。支援がなければ、我々だけでは全部できなかったのではないかと思います。
実は我々が当初考えていた開発内容は、医療機器プログラムを作り上げる部分だけでした。ところが、AMDAPの支援を受けていくなかで、「それだけで広く普及させることは難しいのではないか」「プログラムだけの開発ではなく、検体から塗抹標本を作るためのハードウェアの開発も一緒に進めないと、使い勝手の悪いシステムになるのではないか」というご意見をいただきました。
そこで大きく軌道修正して、顕微鏡にかける塗抹標本を自動的に作成するハードウェアの開発も進めることになりました。これはAMDAPの支援がなければあり得なかったことです。
中島支援を受ける前は全くそういう考えがなかったのですが、専門家の方々、カタライザーの方から「プログラムだけでなく、ハードウェアとの連携まで含めて開発を行った方が良い」というご提案をいただきました。
あらためてKOL(キーオピニオンリーダー)の方々にヒアリングを行い、ほぼ全員の先生方から、「塗抹標本を作るハードウェアが必要である」というご意見をいただきました。
ものづくりでは、作り手側の発想、観点が中心となってしまうことがよくあり、ユーザーのニーズをきちんと確認せずに進めてしまいます。そうすると、ユーザーにとって使い勝手の悪いものになってしまいます。そうした指摘を、AMDAPの支援でいただけたのは本当に助かりました。