令和3年度採択事業者 インタビュー

2022年9月作成

株式会社Jiksak Bioengineering

株式会社Jiksak Bioengineering

神経軸索束を用いた末梢神経損傷治療のための医療機器開発

株式会社Jiksak Bioengineering
Scientist 戸井田 さやか
Scientist 新山 瑛理

培養軸索束で医療機器開発にパラダイムシフトを

培養軸索束で革新的医療機器を創出する

――Jiksak(ジックサック)という会社のお名前ですが、どういった意味があるのでしょうか。

「テーラーメイド方式の心臓アシストネット」とは、どういうものでしょうか。

戸井田神経の「軸索」(じくさく)が会社の名前になっています。軸索は運動神経細胞の細胞体から延びている細長い構造をした部分で、脳から発せられた信号の出力を行います。脳から出た信号は脊髄を通って最後に筋肉に伝わるわけですが、この脊髄から筋肉の間の経路が軸索で、末梢神経系の一つです。当社では末梢神経が関わる神経難病を治療可能にする世界を目指しています。代表の川田が2017年に当社を設立して以降、数回のピボットを経て、現在では2本の柱を基盤に展開しています。ひとつは神経筋接合部(運動神経末端と筋肉が接する場所)に着目した創薬、そして人工的な神経軸索束の作製技術をベースとした医療機器開発です。

 

――神経の培養、というのは、どのようなものでしょうか。

新山弊社のコア技術のひとつは、神経オルガノイド(Nerve Organoid)というものです。人体と同じような軸索束を人工的につくる技術で、神経細胞の細胞体と軸索束を分けて観察することができます。今回のAMDAPの支援対象である「神経軸索束を用いた末梢神経損傷治療のための医療機器開発」に利用されている技術です。神経細胞を弊社独自の特許技術によって培養すると、1本1本バラバラだった軸索が集積していき、最終的に軸索が数千本集まった束(軸索束)になります。この軸索束はちょうど髪の毛程度の太さがあるので、目視もハンドリングも可能です。これを利用して、ケガや病気で損傷した神経を再生、治療する、革新的な医療機器の製品化を目指しています。

事故で体の一部が神経と共に切断された場合、外科医は切れてしまった神経の一本一本を縫い合わせる手術を行います。特別な形の縫合針をピンセットでつまみながら縫っていくので、この手術は長時間かかることもあります。また、神経の断裂が大きい場合には、患者さん自身の健康な神経軸索を採取して断裂部位に移植する必要があります。患者さんにとっても負担となってしまいますし、神経を治療するために、他の神経を傷つけなければなりません。ところが、今開発している神経再生誘導チューブは、ゴールドスタンダートである治療方法を根本的に変えてしまう可能性を秘めています。つまり、わざわざ健康な神経を切除せずに治療できるようになるということです。さらに、人工軸索束の作製に使用する神経細胞は、ヒトのiPS細胞由来の神経細胞をベースに作製して使用するので、品質と供給の安定化が可能です。製品化できれば画期的な医療機器になります。あらゆる症例で使用できるよう、臨床現場のニーズに合わせた太さや長さのチューブが手術時に選択できるような保存方法や生産体制の構築を進めています。

「無知の知」を体現することで全てがポジティブに転換しました

――AMDAPの採択を契機に、何か開発に変化はありますか。

AMDAPの採択を契機に、何か開発に変化はありますか。

戸井田最大の問題は、医療機器の開発経験者が社内にいないことでした。私たち社員の半数は博士号を取得しており、大学や企業での基礎研究は得意としています。しかし、医療機器の製品化、つまり開発に関しては素人同然で「何を優先的に行うべきか」、「どこから手をつけるべきか」、がわかりませんでした。

そのような状況の中で、代表から「AMDAPの支援を受けてみてはどうか」と提案があり、応募のための申請書の作成を始めました。すると驚いたことに、申請書を作成している段階で、事業化プロセスの理解と作業スピードが上がりました。申請書の記載項目を書き上げていく度に、自分たちが何をしていなかったのか、そして今何をすべきなのか、次々に整理出来たからです。

幸運なことに採択をされると、事業化プロセスの加速度がさらに増していきました。人工軸索束の開発に対して東京都がサポートをしているということにより、ベンチャーキャピタルからの当社への期待はより現実的なものに変わった印象を受けています。また事業提携をしたいというお話もこれまで以上にいただけるようになりました。

 

――カタライザーや専門家の助言を受けるなかで、特にこれはというエピソードがあれば教えてください。

新山事業化にあたっては多くの課題がありますが、課題の優先順位の認識が間違っておりました。たとえば、医療機器の滅菌工程は製造が終わった後の工程ですので、製造方法や性能確認などの製品自体の開発が進んだ後、最後に滅菌方法の検討を行うことが当然であると誤解をしていました。

担当カタライザーに指摘をいただき、滅菌会社のセミナーを受け、滅菌方法について相談したところ、すぐにでも着手しないといけない課題であることがわかりました。

扱っている軸索束はいわば「生もの」ですので、そのままでは高熱で滅菌する方法は選択できません。製品を作り上げてから滅菌を行うことができない場合には、最初から無菌状態で作らなければなりません。製造工程がそもそも無菌の環境で作ることができないような場合には、製品として出荷することができないわけです。担当カタライザーの助言により開発の初期段階で気が付くことができました。

活性化するチームと広がるネットワーク、そして爆上がりする開発スピード!!

――製品開発にAMDAPの支援がどのように関わっているのでしょうか。

戸井田そもそもこうした人工的な神経組織を構成物とした製品を医療機器として承認を得る、ということが前例のないチャレンジです。またヒトiPS細胞を原材料に用いていますので、医療機器として審査をいただくことも、私たちにとっては、チャレンジングなものになると思っています。
もちろん薬事申請をする弊社側もどうすれば治験に進むことが出来て、どうすれば上市できるのか、明確には見えていませんでした。

しかしAMDAPに採択され支援を受けることにより、医療機器として承認されるまでの道筋が見えてきました。もちろん、それまでに達成しなければいけない課題は数多くあるわけですが、この道の先に出口があるということを専門家の方々に認めていただいたということはとても大きな意味をもち、私たちにとっても励みとなっています。

近日、医療機器の卸しの会社を訪問し、製品についてヒアリングを行う予定が入っています。AMDAPの支援により、専門家の方が訪問先を選択して調整し、アポイントまで取ってくださいました。支援がなければ、どのような事業のどのような会社に対してヒアリングを行えばいいのかがわからず、予定を調整するまでの時間もかかります。専門家の方には「来週一緒に行きましょう」と最短で予定を立てていただき、日程調整も円滑に進みました。弊社にとっては本当にありがたいことです。こうしたことからもわかるように、開発スピードが想像以上に加速しており、これまでの自分達の状態からは信じられないほど前進した事を痛感しています。

AMDAPに採択されてから、様々なバックグラウンドを持った新しいメンバーも続々と増えました。各々の得意とするところを生かしながら人工軸索束の開発に精力的に取り組んでいます。人工軸索束の医療機器開発は一筋縄ではいかないということを日々感じていますが、非臨床試験から臨床試験までを捉えられるところまで開発を進めることができています。専門家の方からのご助言を基に課題とアクションプランを設定すること、バックグラウンドが異なるメンバーの様々な意見を取り入れていくことで着実に進展できていると実感しています。今後の開発ステップで想定される様々な課題につきましても、ご支援いただく担当カタライザーや専門家の方々がいること、そして多様なメンバーの協力があることは大変心強く、製品化が実現できると信じています。

PAGETOP