令和3年度採択事業者 インタビュー

2022年9月作成

株式会社 CYBO

株式会社CYBO

AIを活用した細胞診断支援システムの開発

株式会社 CYBO
代表取締役社長 新田 尚
開発部長 杉村 武昭
薬事マネージャー真瀬 透仁

開発当初から薬事担当と開発担当が戦略を定めそれを実現する、医療機器開発ならではの体制づくり

デジタルデータを高速で扱えるよう圧縮

――会社の設立からお教えください。

「良い人はいないか」と相談して良かった

新田もともとは東京大学を中心とする研究グループで開発した、高速イメージング技術やAI技術を活用した細胞分取技術をベースとして、2018年に会社を設立しました。その研究成果を紹介するシンポジウムで、細胞診を専門とする医師より「CYBO社の技術をぜひ顕微鏡診断分野に応用・実用化してほしい」とお声がけいただきました。現在、様々な場面でAIの活用が進んでいますが、AIを活用するためには情報をデジタル化させなければなりません。我々の技術を用いて細胞画像のデジタル化ソリューションを提供すれば幅広いニーズに応えられると考え、事業化を決意しました。

 がんの検診や診断などの臨床現場では、顕微鏡で細胞を目視確認して判断する方法が広く用いられていますが、従来のデジタル化技術では目視検鏡と同等の検査や診断が困難といった声が集まっています。我々は、従来のデジタル顕微鏡の課題を追求し、現場の医師の意見を反映した目視検鏡の代替となる画像提示が実現できるよう、試行錯誤を続けてきました。

 ターゲットとしている細胞診では、細胞の塊など立体構造を持つ検体を観察します。医師は顕微鏡の奥行き方向を操作しながら細胞を観察し、細胞の立体構造をイメージして、がん細胞かどうかなどの判断を行います。臨床のワークフローへの実装を考えるにあたりポイントと考えたのが、デジタル情報のみを用いてがん細胞の有無などの判断が行えることです。例えばAIががん細胞と疑われる細胞を検出した場合、その画像を医師が見て確認をする必要があります。ここで「デジタル画像では自信をもって判断できないから顕微鏡で確認したい」となると、デジタルの恩恵が十分に受けられません。デジタル画像のみで医師に細胞診を行っていただくためには、3次元の高精細なデジタル化が必要となりますが、この実現には計算処理に時間がかかる、デジタルデータが膨大になる、などの技術的課題がありました。我々は3次元の高画質顕微鏡画像を高速取得しつつ大幅に圧縮する独自技術を開発することでこの課題を解決しました。さらに、この技術で大量に集めた3次元高画質画像を用いてAIの学習を行うことで高い精度が得られることを確認しました。

 色々な公的支援を受けて最初のプロダクトを2019年に開発し、医療機器としての開発のスタートラインに立てました。

薬事の専門マネージャーを採用

――AMDAPの支援を受け、何が変わりましたか。

薬事の専門マネージャーを採用

新田私は以前のキャリアで研究機器の事業化には携わりましたが、医療機器開発は今回が始めてです。事業を始めるにあたって、色々と勉強はしてきたつもりですが、実際にやってみると、医療機器開発において、自分の知らないことが何なのかということすら十分に分かっていない、という状況でした。そのため専門家と面談をしても、知らないことは質問もできません。
AMDAPでは密接に伴走支援していただき、自分が知らないこと、抜け落ちていることをきちんと指摘して頂いています。そのなかに「事業化の早い段階で薬事専門の人材が必要」というアドバイスがあり、早期に薬事マネージャーの真瀬を採用することになりました。

薬事申請に向けた対応についての意識はもちろんありましたし、いずれ採用しようとは考えていましたが、まだまだ先のこと、という程度の認識でした。仕事量も多いためメンバーが兼任するのではなく、専任の担当者が必要であるということを担当カタライザーから指摘されて、真剣に採用活動を進めました。

 

――真瀬さんは、薬事申請に向けてどのような業務を行なっているのでしょう。

真瀬医療機器は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)により規制を受けるため、市場に出す前に厚生労働省やPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)といった規制当局の承認が必要になります。薬事承認を得るために、何を目的として医療機器を開発するのか、その有効性・安全性・信頼性をどう担保するのか、薬事戦略というものを主に策定・実行しています。

開発中の細胞診断支援システムについては、「何でもできる細胞診用のデジタル顕微鏡を開発しよう」という漠然とした方針ではなく、「細胞診、特に子宮頸がんの細胞診補助に特化したデジタル顕微鏡を開発し、細胞検査士の負担を軽減させる。そのために必要な機能・性能をこう評価する」といった具体的な薬事戦略が必要です。製品開発の初期段階から薬事戦略を策定し、開発担当やPMDAと積極的に議論し薬事戦略の歩調を合わせ、製品の上市に向けたスムーズな薬事承認取得を目指しています。

開発担当と薬事担当の多様な視点で医療機器を実現していきたい

――開発責任者から見た、チームへの感想を教えてください。

杉村開発側の立場では、目標の機能や性能を実現することや、それらをなるべく少ない工数で達成することに注力しがちになります。薬事承認を得るための要求事項や仕様の検討には、開発とは異なる視点が必要になると思います。

医療機器開発には、薬機法に基づいて薬事申請できるように対応していく薬事担当と、自社の技術を規格にそって開発するエンジニアがそれぞれ独立した視点で開発を推進しながら、密に連携して目標を達成していくことが必要だと感じています。
こういった体制の構築を開発の初期段階から進められているのは、AMDAP支援の大きな効果だったと思います。

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