
音声解析技術を用いたうつ病の重症度評価補助ツールの
開発販売
PSTメディカル株式会社
代表取締役社長 道菅 良介 様
製品開発部 部長 岡崎 聡一郎 様
PSTメディカル株式会社は、独自に開発した音声解析技術を有するPST株式会社の子会社として2024年1月に設立された。音声バイオマーカー技術を用いたプログラム医療機器の製品化を目指し、AMDAPの支援を受けながら、うつ病などの精神神経疾患の重症度評価補助ツールの開発に取り組んでいる。

道菅当社のコア・コンピタンスは、特定の疾患や症状に共通する音声の特徴を見出し、かつAIをかけ合わせて精度を向上させる技術であり、疾病や変調の早期発見に貢献できます。私たちがうつ病の重症度評価補助ツールの開発に着手したのは、この領域において確固たるバイオマーカーが無いことと、当社の技術を活用することで、体温計のように簡便で客観的な指標を提示できる可能性があると考えたためです。
製品開発を進めていく上で、数多くの精神科医の先生に臨床現場の現状をお伺いしていますが、実態を知れば知るほど、当社の技術がお役に立てるのではないかと感じています。例えば、うつ病の診療は、心理検査などを通じて患者さんの抑うつ症状の重症度を評価し、診察を重ねながら信頼関係を築き、様々なエピソードを確認して行われていますが、血液検査や画像検査といった客観的な指標が存在しないため、的確な診断までに時間を要するケースもあると伺っています。(時には治療方針等への納得が得られず、通院を中断してしまうケースも珍しくない。)当社技術を用いて抑うつ症状の重症度を提示することができれば、このような課題に関する解決策の一助になるのではないかと考えています。
岡崎WHOのデータによると、日本のうつ病の潜在患者数は約506万人に達しており、増加傾向にあります。私たちは、当該疾患の早期発見に資する製品を開発することで、患者さんの精神的不調期間の短縮に貢献したいと考えています。これによって、精神的不調に起因する自殺や休職などを少しでも減らすことができれば、患者さんご自身はもちろんのこと、社会にとっても非常に有益なのではないかと思います。
また、うつ病患者さんの約9割は、内科や婦人科などのかかりつけ医を受診しているというデータがあり、初期症状から精神科受診までに平均で4ヶ月、長い場合は40ヶ月かかっていることも指摘されています。様々な領域において科学技術が進歩する一方で、精神神経領域における診断技術については多くのイノベーションが創出されておらず、他の領域とのギャップが存在します。より汎用的で使いやすい抑うつ症状の重症度評価ツールがあれば、医療従事者間や患者さんとの間においても共通の指標をもってコミュニケーションをとることができますので、より良い医療に貢献できるのではないかと思います。
道菅採択された2024年10月の段階では、医療機器開発のステージでいうと、基礎研究をちょうど終えようとしていた時期でした。現在、臨床研究の中盤に差し掛かっており、来年には治験に入る見込みですので、AMDAPの支援を受けて開発スピードが着実に上がるとともに、収集したデータは非常に価値のある会社の資産となって蓄積されています。
岡崎音声に含まれるうつ症状に関連した特徴を解析するためのアルゴリズムを構築するためには、医療機関の臨床データ(うつ病患者さんの音声と診療情報)が極めて重要です。採択された当初、私たちが最も必要としていたのは臨床データを得るための医療機関とのネットワークでしたが、多くの方々のご支援をいただき、この1年で目標の半分以上の症例数を集めることができました。これらのデータに基づき、当社開発品が現時点で一定の性能が示されていることはAMDAPの中間報告でも発表したところです。
患者さんには様々な声を発声していただくのですが、方言やアクセントの違いがアルゴリズムの構築に影響しないよう、関東以外の施設も含めてデータ収集を行っています。
岡崎臨床データの収集は、ご協力いただく医師や患者さんへの負担が大きいという課題があります。
私たちの取り組みに関心を持っていただける医師は多くいらっしゃいますが、実際に臨床研究でデータを収集するとなると、そのハードルが格段に上がります。うつ病の重症度評価に用いられるHAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)という尺度があるのですが、この評価は質問の仕方が厳密に定められていて、完了までにおよそ30分かかります。精神科医が1人で多くの患者さんを診る多忙な現場で、追加の業務をお願いし、医療機関や医師から同意を得ることは非常に困難です。
さらに、そのハードルを越えた後には、患者さんご自身からの同意も必要となります。精神的に不調な状態で医療機関を訪れる患者さんにご協力を得ることは心苦しく、決して容易ではありません。
それでも、ご協力いただいている医療従事者の皆様や患者さんがおられます。また、製品開発に関する進捗や現時点の性能をご説明すると、より一層、関心を高めてくださる医師も多くいらっしゃいます。製品開発を成功させて社会実装を進めることが、ご協力いただいた皆さまへの私たちからの恩返しだと考えています。
道菅まずは治験を成功させて、医療機器としての薬事承認取得と実用化を目指します。弊社製品は、医療現場のみならず、自治体や企業における健康診断等にもご使用いただくことが可能ですので、広く展開していくことを考えています。また、言語に依存しない音声解析技術の強みを活かして、東京発でグローバル展開を進めていきたいです。

道菅「製品開発」「臨床開発」「保険・医療経済」関連を中心として、多くの専門家の方々にご支援をいただいています。製品開発に関しては、臨床医の先生方のご意見が、臨床開発に関してはPMDAの立場からの観点が、保険・医療経済については学会や患者さん等の視点が重要になりますが、スタートアップ企業が自らのリソースだけでこれらの有益な情報を入手することは容易ではありません。AMDAPにご支援いただいていることで、これらの貴重な情報源にアクセスできるとともに、的確なアドバイスをいただけることは、金額では表すことができない価値があると考えています。また、私たちのカタライザーはプログラム医療機器の開発経験が豊富で、専門家の紹介だけではなく、専門家への質問の仕方から助言をしてくれています。製品開発におけるデータ収集や臨床現場で役立つ製品設計、治験プロトコル設計、PMDA対応で押さえておくべきポイント、保険収載に向けた医療経済分析など、事業化を強力に後押ししてくれています。精神神経領域における診断技術等の開発に注力している企業はまだ少ないので、弊社がリーディングカンパニーとなって、様々な製品を上市していきたいと思っています。