特発性拡張型心筋症に対する新たな治療法
(心臓形状矯正ネット)の開発
株式会社iCorNet研究所
代表取締役 秋田 利明 様
取締役 杉山 純男 様
秋田心臓に直接かぶせるように装着をして、心臓の拡大を防ぐネットです。心臓の収縮力が低下するタイプの心不全になると、心臓は大きくなることで心拍出量を維持します。しかし、そのこと自体が心臓に負担となり、さらに心臓の収縮力を低下させて、更なる心臓の拡大をもたらし、悪循環が続くことになります。この過程は心臓リモデリングと言われ、原因疾患に関係なく、心不全が悪化する現象です。末期の心不全では心臓は正常の3倍以上の大きさとなり、心機能は健康な時と比較すると1/3以下になってしまいます。心臓アシストネットによる治療は、メッシュ状の布を心臓にかぶせて、この心臓リモデリングを物理的に止める治療法です。
この心臓アシストネットは3次元形状のニット製品を無縫製で製造できる編み機を使って、テ-ラーメイド方式で設計・製造するのが特徴です。イメージとしては、市販されている段階着圧の靴下のようなもので、患者さんの心臓の大きさに合わせた3次元形状のものを編み機で作成します。編み地を縫い合わせる作業はありません。
秋田2000年代前半に「コアキャップ」という心臓全体を包む製品について、欧米でいくつか論文が発表されていました。6種類程のサイズがあり、外科医が手術のときに最適なサイズを選ぶのですが、最終的には患者さんの心臓に合わせた調整をしなければなりません。編み機でその人に合わせたぴったりサイズのものを作ることができれば、手術の際に調整をする必要がなくなり手術時間の短縮になるのではないかと考えました。
同時期に、株式会社島精機製作所が立体的なものを編める機械を開発したという記事を読み、これを使えば良いのではと思ったことが本製品の開発のきっかけとなりました。縫い合わせることなく、完成した形の立体的な帽子や靴下を作ることができる機械です。
秋田体内に留置する製品となるため、研究開発当初は使用する糸の確保に苦労しました。長年縫合糸として用いられてきた材料を提供して頂ける企業が見つかり、動物実験、非臨床試験等をその糸で行いました。ただ編み上がったネットの物性が安定しないため、先方の工場に出向き相談しました。繊維の組み方から製造環境の温度湿度まで指定することで、精度の高い糸を開発しました。特注の糸を使用し、編み機の環境や使い方を試行錯誤し、自信を持って使える心臓アシストネットが完成するまでに3年かかりました。
完成後、2021年3月までに特定臨床研究を3例実施、結果は予想をはるかに上回るものでした。
Aさんは、「最大酸素摂取量」が、30%向上した結果が出ました。公共交通機関を使用する際に、エレベーターを使用せず、階段を息切れしないで登れるようになっています。
Bさんは、週2日バドミントンを行ない、別の日にもジムでトレーニングをしています。アシストネット装着前にはちょっとした活動も難しかったのですが、明らかに改善した成果が出ました。
Cさんは、自営の工場を心不全のため一時的に閉めていましたが、アシストネットを装着したことで体調が改善し、工場を再開させることができています。
杉山私は以前、医療機器メーカーの代表として、心臓外科手術の際の体外循環に関する商品を取り扱っていました。新製品の導入経験に加え、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)や、業界団体と厚生労働省との交渉経験があり、秋田先生の開発をご紹介いただいた瞬間に、開発をした技術をどのように製品化すれば良いかといった点でお手伝いができると思いました。
研究者の方々は、開発に対する集中力は素晴らしいのですが、出口戦略や、完成した製品をどのようにビジネスにしていくかということには、なかなか考えが及びません。私も現場を離れてから3年経っていますので、最新の申請・承認状況への理解が不足しているかもしれません。
AMDAPの支援の一貫として、PMDAや厚生労働省出身の方にお会いし、助言をいただきました。私もこれまで行政とは様々な交渉、相談をしていましたが、以前はお互いに本音で言えない部分もありました。今は立場が変わり本音で話しができるので、とても助かっています。
本開発品は「先駆的医薬品等指定制度」(先駆け審査指定制度)に選定されていますが、「希少疾病用医薬品・医療機器等の指定制度」もあります。どちらを優先したらいいのかの判断に困っていました。
「先駆けで行くのがいいか、希少疾病で行くのがいいのか」を、厚生労働省出身の専門家に相談しました。そうすると、「先駆けが良いだろう」という意見がスパッと出てきました。とても貴重な意見でした。
また、担当カタライザーから、開発品について「通常のニット製品の製作精度の常識を遥かに超えた寸法精度を実現している。」と評価を頂きました。私が今までに扱っていた医療機器の経験では、製造の精度がそこまでの特長になるとは考えていませんでしたが、「開発品の精度は医療機器の中でもトップレベル。とても精緻なもので、この製造精度は別次元の領域のものになっているのでもっと強調すべき」と言われ、目からウロコでした。
秋田医療機器としての安全性試験は終わっています。臨床研究を行なった患者さんの術後の運動能力の改善は、アメリカのFDA(食品医薬品局)が2019年に承認したOptimizer Smart systemよりも遥かに良い値が出ています。最大酸素摂取量の向上については、多数の著名な有識者にも大変に高い評価を頂いています。
いよいよ次の段階の「探索的治験」を行なうところまで来たわけです。今後は3億の助成をいただき、そして承認をしていただけるように進めて行きたいと思っております。