緑内障患者向け家庭用眼圧計の研究開発
株式会社トニジ
代表取締役 小橋 英長 様
株式会社トニジは、慶應義塾大学眼科学教室で特任講師を務める眼科専門医の小橋英長氏が起業したスタートアップで、緑内障の診療を効率化しようと家庭用眼圧計の研究開発に取り組む。汎用性ある技術で低価格帯のデバイス開発を目指しAMDAPの支援を受けている。患者さん自身が自宅で眼圧を測定し、遠隔で医療機関と計測データを共有するほか、点眼薬を忘れずに投与する動機づけにもつなげたい。若年層から中高年層で緑内障早期の患者をターゲットに研究開発から実用化への構想を練る。
小橋緑内障は高齢者に多い目の病気です。眼球内部の圧力が上がることで視神経に障害が生じ、視野が欠ける症状が生じます。国内では失明原因の1位となっており、60歳以上で10人に1人、40歳以上でも20人に1人が罹患すると言われます。
緑内障の初期症状に対しては眼圧を下げるための点眼薬投与、点眼薬では十分に眼圧が下がらない場合はレーザー治療、さらには手術と、症状に応じた治療がおこなわれます。
初期は自覚症状を覚えず、次第に視力低下をきたすため、高血圧の治療のように早期介入できることが望ましい病気と言えます。治療は進行を抑えるためであり、完治するわけではありません。初期段階から眼圧を毎日測ることで、点眼の意識づけにもつながればと考えています。
緑内障の治療では、定期的な眼圧検査が推奨され、そのために通院するのが一般的です。家庭用の眼圧計に既存製品はあるものの、高額であることからなかなか普及しないという課題があります。緑内障の患者さんからも「体温計や血圧計のように手軽に自宅で眼圧を測れたらいいのに」という声を聞くことがあります。自宅で測った眼圧データをかかりつけの眼科医あるいは医療機関に遠隔で情報共有できる仕組みが普及すれば、体に不自由のある患者さんや忙しい日常を送る人にとっても緑内障の診察機会を逃すことを防げるのではないでしょうか。低価格帯での提供が可能となれば、こうした患者さんにとっての利便性向上のみならず、眼圧をモニタリングすることそのものの認知度も高めていけるかもしれません。
小橋家庭用眼圧計の研究開発はエンジニアと私との2人ではじめました。医療機器としての開発を目指しているので、総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者の三役を社内で体制を構築し、医療機器製造販売業者として申請するよう検討しています。また、スタートアップならではの“ゼロから手探り”もあり、どのような人材をどのように確保していくのか、自社でできることと外部の力を借りることなどの精査も進めています。
眼圧計は、JIS規格があるため、設計、構造、機能、試験、検証、附属文書等、研究開発はそれに基づいて進めています。医療機器として認証を取ることになれば後発品となるため、既存品との比較、優位性、エンドユーザーが何を求めているのか、費用対効果など、市場調査もしっかりとやっていかなければなりません。
緑内障の発症原因は加齢だけではなく、40代前後の近視の患者さんも視野障害を自覚することがあります。日本は国民皆保険という恵まれた医療環境下にあり、緑内障の治療は保険適用になります。早期介入をしやすくして、患者さんが積極的に治療に取り組めるような眼科医療に寄与する製品開発とその実用化が今の目標です。
AMDAPのカタライザーには、こうした課題に対して私たちの身の丈にあった助言をいただいています。また、特定の技術や領域に詳しい専門家との面談を通じ、私たち自身の知見を深めているところです。私が会いたいと望む専門家が他にいれば、AMDAPの枠組みの中で面談を組めるので、自社にはないネットワークとマンパワーを得ることができています。
小橋緑内障の初期は特に自覚症状がないものですから、たとえ眼圧計が手元にあったとしても自らモニタリングする習慣づけには何かしらのインセンティブが必要だと考えています。患者さん自身が積極的に治療に関わっていけるような仕組みについては、ヘルスケア領域を含めエンドユーザーと医療機関が遠隔でつながるサービスなどの動向を調べたり、連携する企業候補を検討したりと、アーリーな段階で事業化への道筋を描きたいと思います。
小橋医療機器開発に着手しようという初期段階あるいは入口から出口を見据えるお作法、計画、解決すべき課題などについて実践的に学ぶことができます。経験豊富なカタライザーと相談したい分野の専門家が揃っていて、私自身が話を聞きたい人を指名することもできる自由さがあるおかげで、飛躍的に視野も人脈も広がりました。AMDAPを介せば相談もしやすく、東京都の事業の一環であることが信頼性にもつながったように実感しています。
1年に3社が支援事業者として採択されています。過去に採択された企業から経験談を聞くことができますし、事務局からもAMDAPの活用方法を提案してもらえるので、2人という小さな体制であっても挑戦しやすい環境があると思います。