
給排水システムの不要な在宅血液透析装置の開発
フィジオロガス・テクノロジーズ株式会社
代表取締役 宮脇 一嘉 様
取締役CTO /博士(工学)小久保 謙一 様
血液透析は一般的に週3回、1回あたり4時間ほど要し、通院時間を含めると1日約6時間を費やすことになる。身体的負担だけでなく、拘束時間が長いために就労や社会生活にも支障が生じ、患者さんのQOL(生活の質)は大きく損なわれている。透析は命をつなぐ治療であると同時に、日常の自由を奪う“生活の制約”でもある。フィジオロガス・テクノロジーズ株式会社は、その課題を正面から解決するべく、患者さんが家庭で簡単に扱える在宅向け小型血液透析装置の開発に挑んでいる。医療機器としての信頼性と、暮らしに自然に溶け込む使いやすさ。その両立を目指してAMDAPの支援を活用し開発を進める。

宮脇最大の課題は患者さんのQOLの低さです。世界的にも在宅血液透析の質と利便性を高める動きが加速しており、関連する装置を開発・製品化した企業には多くの投資が集まり始めています。私たちもスタートアップの立場からその変化を肌で感じています。
日本透析医会が発行する「在宅血液透析管理マニュアル」によると、在宅血液透析は患者さんの自由度を高め、社会復帰を支えるうえで極めて有効とされています。さらに、長時間透析や頻回透析を行うことで、標準的な週3回4時間の施設透析よりも治療効果が高まるとさまざまな論文で報告されています。
血液透析は、腎臓の機能がほぼ失われた末期腎不全(ステージ5)の患者さんに行う治療であり、世界全体で500万人程度が透析を受けています。日本透析医学会統計調査によると、国内約35万人の患者さんのうち、自宅で血液透析を続けているのはわずか0.2%にとどまります。
施設透析では週3回、1日6時間を拘束されるため、通院負担や勤務時間の制約により、継続的な就労が難しいのが現実です。私たちが開発する在宅血液透析装置は、1回3時間の治療を週5回程度行う方式を採用し、体内の尿毒素をより安定的にコントロールできるように設計しています。患者さんは生活のリズムを乱さずに治療を続けることができ、フルタイム就業も現実的になります。医療機関側にとっても、患者一人あたりの治療管理コストが低減し、より多くの患者に対応できる体制を築くことが可能になります。
労働年齢層である65歳以下の患者にとって、就労継続と治療両立を支えるソリューションとして、社会的な意義は非常に大きいと考えています。こうした取り組みが定着すれば、透析患者の社会復帰率の向上や医療費の最適化にも寄与でき、社会全体に経済的・人的な好循環をもたらすでしょう。
小久保当社が開発する装置は、水道水を使用せず、透析液をシステム内で再循環させる独自技術を採用しています。これにより、給排水設備が不要となり、設置の自由度が大きく高まりました。家庭環境を大きく改修することなく導入できる点は大きな利点です。
さらに、操作を簡便化し、機器を小型・軽量化することで、患者さん自身が安全に準備・管理できるようにしています。電源があればあとは消耗品のみで治療が行え、日常的なメンテナンスや洗浄操作も不要です。従来の在宅透析でネックとなっていた導入・維持管理の負担を大幅に減らすことが期待されます。
また、装置が除去対象とする尿毒素は、尿素・クレアチニン・尿酸・リン・カリウムなど多岐にわたりますが、これらを効果的に取り除くと同時に、生体に必要なイオン濃度を一定に維持できることが確認されています。安全性と性能を両立した「循環型透析」の実現に近づいています。
従来の在宅透析は装置が大きく、設置スペースの確保に加え、管理やメンテナンスが複雑で、エラー対応も難しいという課題がありました。当社の装置は、その壁を打ち破ることで、施設透析から在宅透析への転換を後押しし、さらに、インフラ整備が難しい途上国や地域でも給水不要の血液透析を実現できる可能性を開きます。血液透析の常識を変えるパラダイムシフトが起こると信じて開発に取り組んでいます。
小久保私は現在、工学研究者として北里大学で臨床工学技士の育成に携わり、血液浄化や透析技術と向き合っています。研究の中で常に考えていることは、患者さんのQOL改善を医療技術の発展で実現したいということです。工学の立場から、治療をより人に寄り添った形で支える技術を社会に実装したいと考えています。
究極の夢は「植え込み型人工腎臓」の実現です。これは多くの工学者が共通して抱く目標であり、生体機能を工学的に再現するという壮大な挑戦でもあります。ただし社会実装には依然として大きな壁があり、その中間段階として、現実的で意義ある形を模索してきました。国内で在宅血液透析を行う患者さんはわずか約800人、全体の0.2%にとどまるという現状は、明確なアンメットメディカルニーズです。ここが挑戦の出発点となりました。

宮脇AMDAPを通じて、保険収載に向けた考え方を根本から見直せたこと、そして3年間という長期間の伴走支援を受けられること、この2点が特に大きかったです。従来は「治験で安全性・有効性を証明し、承認後に保険収載される」という直線的なプロセスを想定していましたが、支援を受けたことで「最終的にどんな医療価値を届けたいのか」から逆算して開発を設計する視点を得ることができました。これは目から鱗が落ちる経験でした。
伴走支援では、担当カタライザーと隔週で打ち合わせを重ねています。私たちの事業理解に努めながら、専門家相談への準備や課題整理を共に行い、的確な支援をいただいています。自分たちが理解できていない領域を整理し、専門家に橋渡ししてくれる存在が常にそばにいることで、開発の方向性がぶれずに進む安心感があります。まさに“ワンチーム”として支え合う支援体制だと感じています。
医療機器の事業化は時間を要するプロセスですが、AMDAPはその現実を理解したうえで、段階的に成長を促す仕組みがあります。それが、私たちのように新しい医療の形を模索する企業にとって大きな支えになっています。